「結納の品目」何を贈る

昔々、結納品は何でも良かった

古くは結納の品物は決まっていなかったようです。江戸期に武家の礼法の第一人者とされた伊勢貞丈は、その著作である「四季草」の中で「進物の品は、人々の心まかせにて、何々と定りたる事なし」としています。
近世からの武家の結納品を見ても、コイやマスなどの川魚や、現代ではタブーとされている鳥獣の肉などの贈り物がある一方、花嫁への心配りとしてカキツバタや菖蒲の花を小袖に添えるなど、当店のモダン結納シリーズに通じる贈り物をすることもあったようです。現在のように地域で多少の違いがあるものの、全国的にほぼ同じ結納の品目を贈るようになったのは明治以降でしょう。

現在の結納品はどのようなモノ

結納は神仏、ご先祖様へ結納品を献上して婚約の礼を尽くすもの、という事はすでに説明しました。(「そもそも結納とは何」
結納品をいただかれた家は、まず神様に結納品をささげ、その後に結納の品々を食べて恩恵をえますので、贈る品物は神様にゆかりのある品物になります。ただし、現在の結納品の傾向として、現物を贈る代わりに、松魚料や酒肴料などお金を包むケースが増えています。
代表的な結納品の品目について、その意味を説明します。結納品選びの参考としてください。

 熨斗(のし)

結納をはじめ、お祝いごとには必ず添えます。結婚や出産祝いなど、お祝い事で紅白の水引で飾った祝儀袋を目にすることがあると思いますが、祝儀袋の右肩には折紙で包まれた黄色の短冊が貼られています。その黄色の短冊を「のし」と呼びます。

熨斗は「鮑(アワビ)」のこと
この黄色の短冊を熨斗と呼び、その正体はアワビになります。ただし、貝のアワビがそのまま使われているのではなく、薄く切って伸ばし、乾燥させたものをお祝いの席に献上していました。アワビを薄く伸ばすことから、中国語でアイロンを意味する熨斗という名前がつけられたようです。
熨斗になるアワビを加工したものは手に入り難く、大変に高額であること、また衛生上の問題から実際に結納に用いられるのは稀で、アワビを模したセルロイドなどで代用されます。

熨斗は神様への献上品
なぜアワビが贈られるようになったのか、そのルーツを紹介しましょう。
今から約1800年前のこと、倭姫命というお姫様がいらっしゃいました。倭姫命は天照大神をお祀りする「伊勢神宮」を創建された後、大神様にお供えするものを探して各地を旅されていました。そして志摩の地まで来られたところで、アワビを採っていた海女たちと出会われます。海女から差しだされたアワビを食べたお姫様はとても気に入られ、伊勢神宮に献上するようにお求めになったのです。しかし、生のアワビをそのまま伊勢まで持って行くと途中で腐ってしまいます。そこで日持ちするようにアワビを薄く切って伸ばし干したもの、つまりは「熨斗アワビ」を献上するようになったと言われています。
それ以来、伊勢神宮の最も由緒ある月次祭、神嘗祭には、熨斗アワビが神様にお供えされるようになったのです。

不老長寿、縁起ものとされる熨斗
さて、伊勢神宮に献上されるようになった熨斗アワビは、不思議な霊力を授けられた特別な食べ物とされました。熨斗アワビの仄かな海の匂いは穢れを払うとされ、長く伸ばして作ることから、命を延ばす、不老長寿をもたらす食べ物とされてきたのです。
また時代が下り、武士が台頭する時代になると、「伸ばす(のす)」の言葉より、敵をのす(打ち負かす)、家運を伸ばすとして、武運長久、家門繁栄の縁起ものとして扱われるようになりました。

この様なことから熨斗は、ハレの日にふさわしい格式ある貴重な贈り物として、古くより重用されています。当店の結納品セットには、洋風結納であるエルモソなどの一部を除きすべての結納品に熨斗をお付けしています。

 末広(すえひろ)

末広とは「扇子(せんす)」のことで結納では白色の扇子を2本、贈り物とします。
末広の名前の通り先端にゆくほど広がることから、末広がり、家門繁栄を意味しますが、その他にも大切な意味を持ちます。

扇子は穢れを払う力をもつ
現在の私たちから見ると、扇子はウチワと同じように扇いで涼をとるための道具のように思えます。しかしそのルーツをたどると、扇子の原型は沖縄でご神木とされる蒲葵(びろう・ヤシ科の植物)の葉をかたどったもので、元来は扇ぐという実用的なものではなく、神様の力が宿る神聖な祭祀の道具とされていました。
この神聖な道具としての意味合いは今でも残っており、祭祀では女性の神職は檜扇(ひおうぎ)という、杉の薄板を綴り合せた扇子を持ち、僧侶においても中啓といわれる構造上、開くことの出来ない扇子を持ちます。そもそもは扇ぐことを目的としたものではありません。
扇子の本来の使われ方は、「蒲葵の葉」の神聖な力によって、悪気、「穢れ」を払うことにあったのです。
少し例をあげると、時代劇などに登場する公家や大名は、何か不吉なものを目の当たりにすると顔の前まで扇子を持ち上げて目だけを覗かせます。また人の噂話などをする場合は扇子で口元を隠しますが、何れも魔を防いで穢れが寄りつかないように扇子を使っていました。
江戸時代には扇子を作る職人が増えて庶民にも広まり、親しい人への正月の贈り物や祭りのご祝儀として用いられ、結納品としても贈られるようになりました。
扇子を結納品として贈る意味は、「両家の縁組に魔が入ることを防ぎ、末永く円満に両家が結びつく」を願って始まったものでしょう。

蒲葵 神聖な木として崇めららていた

蒲葵の隠れた意味、命を子孫につなげる

さて、扇子は「蒲葵の葉」をかたどったものと説明しましたが、蒲葵がなぜ神聖なものとされて来たのでしょうか。ここでは詳しく説明することは留め置きますが、先人たちは蒲葵の木を男女のセクシュアルな営みの象徴としていました。新しい生命を生み出す木として、この木を畏怖し、また崇めたのです。末広のルーツをたどれば、まさしく子孫を残すこと、引いては家門の繁栄と結びついていることが分かります。

当店では熨斗と末広の2品目について、結納には欠かすことの出来ないものとして、結納を西洋的に解釈した商品「エルモソ」などの一部を除き、すべてのセットにお付け致しております。

 友白髪(ともしらが)

「ともしらが」は友白髪または共白髪とも書かれ、地方や結納店によって少し異なりますが、夫婦円満や長寿などを始め「ともに白髪になるまで幸せでいましょう」という意味になります。
実際に友白髪として贈られる品物は「麻(あさ)」で、当店では薄い帯になった麻の繊維を友白髪とします。麻は非常に丈夫で切ろうとしても切れないことから、縁組をより強くすると言われます。

麻は穢れを払う

麻も末広と同様に、「穢れ」を払い清める力を持つもので、祭祀には欠かすことが出来ないものです。家庭の神棚にお祀りする天照大御神の「お札」は、現在では和紙で作られていますが、お札のことを「神宮大麻」と言うように、かつては麻が使われていました。麻が手軽に入手できた頃は、神社に結界をはる「しめ縄」や神職が罪や穢れを払うための道具である「大幣」、僧侶が持つ「払子」をはじめ、実に至るところで麻が使われていました。
麻が結納の品物として贈られるのは、末広と同じく魔や穢れを防ぎ、縁組を円満に強いものにするという意味が込められています。

 結納料

結納料のことを「御帯料」または「小袖料」とも呼びます。以前は着物の反物を贈っていたものが、現在ではお金に代わったとされます。また、女性から男性に結納返しを贈る場合は、「袴料」とします。結納金については、別に項目を設けて説明します。

 日本酒

二人が一生(升)添いとげますようにという意味で、1升のお酒を2本贈ります。九州地方の結納では現物のお酒を贈られることが多く、現在では角樽よりも1升瓶を贈るケースが多いようです。お酒がご神前に上がらぬ事はないと言われるほど、祭事にも馴染み深いものです。

 清酒料(柳樽料)

日本酒の現物の代わりに現金を包む場合は、清酒料または柳樽料と呼ばれる金封を贈ります。名称はどちらでもかまいません。包む金額は決まっていませんが、1万円程度が多いようです。

 鯛

雌雄一対の「タイ(大鯛)」の現物を贈ります。贈り方にも作法があって、鯛の頭を左に向けて(または屏風側)、雌雄の腹を合わせて竹籠などの器に乗せて贈ります。1匹は仲人さんがいらっしゃれば仲人さんの手土産として渡し、もう一匹は結納の席の食事会で、贈られた女性の家が調理して振る舞うのが慣習です。鯛の現物を贈る場合、女性側の準備もありますので事前にお伝えしておくのが良いでしょう。
最近は鯛の現物を渡すケースは少なくなり、「松魚料」、または「肴料」として現金を包むことが多くなっています。

 松魚料・肴料

松魚とは「カツオ(鰹)」の事ですが、九州や関西の結納では鯛の代わりであっても松魚料、または肴料とします。肴料の場合は鯛だけでなくスルメ、コンブ、カツオ節を含んだ意味になります。
鯛を贈って結納の食事会で食べていた事から、最近では男性側の食事代として「松魚料」を贈るとする向きもありますが、九州の結納では本来はそのような解釈はありませんでした。この当たりのことは関西地方の影響でしょうか。
松魚料の金額も決まりはありませんが、大鯛二匹の現物と同じくらいの金額が目安になります。九州では結納金の何割という考え方はないようです。

 酒肴料

酒と肴の現物を贈る代わりにお金を包む場合は「酒肴料」の金封を贈ります。
それぞれ現物と同等の金額をお包みします。

 スルメ、コンブ

寿留女(するめ)、子生婦(こんぶ)とも書きます。「喜びがずっと留まる女性でありますように」「子孫が繁栄しますように」という願いが込められた贈り物です。古来より海のもの山のものをご神前にお供えをしますが、寿留女、子生婦、勝男武士は「海のもの」の代表格になります。

 かつお節

鰹節のことで縁起をかついで勝男武士と書きます。鰹節の雄節を1本、または雄節、雌節のそれぞれ1本を1組として贈ります。
関東の結納の場合は、食事代を両家で折半とするため松魚料を包む習慣がなく、その代わりに勝男武士を贈ります。

 お茶

お茶のことを結納では御知家と書きます。九州結納ではお茶を贈る習慣があり、贈られた家は婚約のお披露目をかねて親戚、近所などにお茶を配ります。「お茶の木は植え替えが出来ない」「お茶の木は根をはって長持ちする」などと言われ、嫁入りに縁起が良いものとされます。
ただし、関西では「縁談がちゃちゃ(茶々)になる」と言われ、お茶を贈ることは避けます。

 指輪

結納時に贈る指輪は結婚指輪ではなく、「婚約指輪」になります。
もし結納より前に贈っている場合は、男性側が一旦預かって結納品として贈る品に加えます。婚約指輪は約半数の人が貰われていますが、結納に必ず必要な品ではありません。

 目録

男性側から女性側に贈る結納品の品目の一覧です。納品書のような役割で、奉書紙に「一、結納料 一、魚料 …」というように品目を墨書きします。婚約指輪など、結納までに準備が間に合わなかった品物も目録に書いて、婚約時の贈り物として明らかにしておきます。当店の場合、差し上げる品物が偶数になる場合は、縁起物の鶴亀や目録などを加えて、奇数になるように調整します。
また目録には贈る男性側と、いただく女性側の名前を書きます。以前はそれぞれ家長の名前を書いていましたが、最近では婚約をする当人同士の名前を書くのが一般的になっています。

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