忘れ得ぬお客様 嫁を貰う父親の責任

結納店をしていると忘れられないお客様と出会うことがある。
ある日のこと、白髪を短く刈り上げた眼光鋭い男性がやって来た。眉間には深いシワが刻まれ、そのお客様が歩んできた人生が分かるようなご尊顔。しかも、不機嫌そう。この状況はひょっとしてヤバい?
 何でもネットで見つけた当店を気に入ってくれて、わざわざ福岡市近郊から来て下さったとのこと。遠い所から、本当にありがとうございます。そして不機嫌な理由もすぐに分かった。
 息子さんが結婚することになり、次の日曜日に「顔合わせ」があるから来て欲しいと頼まれたそうなのだが…。

 ご主人いわく「しかしだ。昨日になって息子に聞いてみると手ぶらで行くつもりらしい。ハァ?ですよ」。理路整然と語られる口調の中に、息子さんを叱りつけた様子がうかがえる。このお父さんに叱られたら、息子さんも震え上がったに違いない。
「犬や猫を貰いに行くわけじゃあるまいし。こっちにも嫁にもらう責任ってものがあるでしょう!」
ウム。ご主人さんの言う通り。結納屋が膝を叩いて喜ぶ名言です。
 そうです。「責任」があるんです。責任を英語にするとresponsibility(レスポンシビリティー)になるらしい。実に本質を得た言葉で、responseは応じるという意味。responsibilityで「応じることが出来る」になる。つまり、女性側の家からの願い、求めに応えていきます、と解釈される。口に出さずとも、お嫁さんの家からの「娘をどうか幸せにしてやって下さい」の頼みに、「おう!まかせとけ」と言うのが男性側の責任なんです。その証しに結納品を贈る。
 実はこの硬派なご主人、某所の警察官。すぐに気づきました。なんてたって取り調べのような打ち合わせでしたから。シビアな納期にアタフタするにするボクたちが恐縮するくらい、何処までも誠意とスジを通す立派なお方でした。きっと父親として、新しい娘を幸せにするという約束を果たされるでしょう。
 そして、ご主人に叱られた息子さん。なんと、わが家の長男の受験の時に、とても親身になって相談、指導して下さった学校の先生。父親のDNAは引き継がれています。この事が分かったのは、ずっと後のこと。縁とは、まことに不思議なもの。

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